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黒澤明監督の「生きる」がイギリス版「生きる LIVING」の違いを解説

 

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生き様と死に様

 黒澤監督の「生きる」と今村昌平監督の「楢山節考」は私の死生観の大きな影響を与えた映画です。両方とも大学生の頃、映画館で見て、生き様という言葉があるように「死にざま」というのもあるのだと痛感したのを思い出します。

 この映画は、黒澤監督の「生きる」をノーベル賞作家である「カズオ・イシグロ」の脚本でリメイクしたものです。現在、劇場公開されているので、ご興味がおありの方は是非足を運んでみてください。

「生きる LIVING」のあらすじ

 死んだように淡々と生きていた公務員の老人ミスター・ウィリアムズが、自分の死期を知り、戸惑い愚行を行ないながらも、「生きることなく人生を終えたくない。」と、最後に自分のやるべきことを成し遂げようとする。

 冒頭のシーンで、王室のある階級社会イギリスの公務員の序列について、暗示されています。課長であるウィリアムズが電車を降りてくるまで、部下達は役所に向かうことなくミスター・ウィリアムズに朝の挨拶をするまで駅で待っています。そして、ウィリアムズが挨拶を済ませて、しばらく先を歩くまで部下達は後を追うこと許されません。

 そのウィリアムズも上司であるジェームズ卿の前では帽子を脱ぎ、道を譲り、道の脇で深々と頭を下げます。イギリスの階級社会では公務員でもこのような序列があったことが分かります。

 そんな中で、元部下マーガレットの「人生に真摯に向き合う生き方」に感化されたウィリアムズは、子供の頃になりたかった「紳士」になることを決意します。市民のために命がけで働く勇敢な「紳士」にです。ウィリアムズは序列の厳しい役所の中で、上司であるジェームズ卿にでさえ盾突いていきます。

 さて、その後、ウィリアムズは、そして周囲の人々はどうなっていくのでしょうか?続きは是非、劇場でご覧ください。

「生きる LIVING」の感想

 前半にウィリアムズが酒場で「ナナカマドの木」を歌っているシーンで最初の号泣。そして、遊び場建設の回顧シーンから最後のブランコのシーンまでずっと泣き通しで、黒澤監督バージョンとはまた違った感動がありました。

 黒澤監督の「生きる」の渡辺勘治課長は丸メガネで背中を丸めて書類にハンコを押し続けるさえないおじさんでした。ですが、「生きる LIVING」のミスター・ウィリアムズは妙な貫禄があり、その「紳士らしさ」が妙にイギリスらしくて、もっとさえないおじさんであってほしかったと思いました。黒沢監督の「生きる」はさえない、おどおどしたおじさんが奮起するというギャップが感動をより大きなものにしましたが、イギリス版はもともと堂々としているミスター・ウィリアムズが奮起するので、そういったギャップが感じられず、やはりそこは黒澤バージョンのほうが、練られた脚本だったと思えました。

 また、市民課を訪れるご婦人たちも黒澤監督バージョンでは明らかに低所得者層のようなみすぼらしい恰好をしていますが、イギリスバージョンでは、きれいに着飾ったご婦人たちが苦情を言いに来ます。イギリスでは公共の場に向かう際は、正装をするものなのかもしれません。ですが、こちらの表現も、苦情を申し出るご婦人方が低所得者層でみすぼらしいことがその困窮具合のコントラストを強く色づけており、黒澤監督の演出のほうがインパクトが強いと感じました。

 黒澤版が143分かけて渡辺勘治課長の若い頃の思い出、人となりを丁寧に描いているのにに対して、今回のイギリス版は103分でエッセンスだけを抽出し、ドラマチックに駆け抜ける演出になっています。

 そして、一番違うと思ったのは「歌」です。黒澤明監督の「生きる」では「ゴンドラの唄」の「命短し、恋せよ少女(おとめ)」と、命のはかなさについて歌っている歌を採用しています。

いのち短し 恋せよ少女(おとめ)
朱き唇 褪せぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日の ないものを

 この歌詞が、さえないおどおどした渡辺課長が、人生を生き切ろうと最後の力を振り絞った姿とリンクして、自然と涙があふれてしまいます。ですが、イギリス版で採用された「ナナカマドの木」の歌詞は、命の短さに言及していないので、そこのリンク感が薄いのが残念なところです。

 やはり若い頃に見た映画というのはインパクトの残りやすいのかもしれませんが、私の中では、黒澤明監督の「生きる」が圧勝でした。

 とはいえ、「生きる LIVING」は、現代的にドラマチックに黒澤監督の「生きる」をリメイクしているので、入門編としてはとても良い出来だと思いました。黒澤明監督の「生きる」は主人公を淡々と丁寧に描き、イギリス版の「生きる」は主人公をドラマチックに描いているという点が大きな違いだと感じました。

黒澤明監督の「生きる」を無料で見る方法

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